世界自然遺産の島、屋久島。太古の森が息づくこの島は、実は神秘的なウミガメたちにとっても、かけがえのない重要な場所です。この記事では、屋久島に生きるウミガメの生態、特にその産卵の様子、直面する環境的課題、そして行政や各団体・地域集落による重要な保護活動についてご紹介します。
屋久島におけるウミガメ産卵の主要な舞台は、屋久島最大の砂浜となる永田浜(いなか浜、前浜、四ツ瀬浜の総称)です。この浜は、北太平洋最大のアカウミガメの産卵地として知られ、ラムサール条約湿地にも登録されています 。その他、栗生浜や中間浜などでも産卵が確認されています。
屋久島で主に産卵するウミガメはアカウミガメですが、アオウミガメも少数ながら確認されています。
環境省の資料によると、これらのウミガメは一生のほとんどを海で過ごし、メスだけが産卵のために砂浜に上陸します。成熟するまでには約30年という長い年月を要するといわれています。
アカウミガメもアオウミガメも、環境省のレッドリストや国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されています。
ウミガメが成熟するまでに30年という長い時間を要するという事実は 、今日の産卵成功率の低下や子ガメの生存率の悪化が、数十年後の個体数に直接的な影響を与えることを意味します。ある年の子ガメの群れが、砂浜の劣化や気候変動の影響で生き残れなかった場合、その世代の繁殖可能な成体が存在しないという事態が30年後に顕在化するのです。このような時間差は、個体数減少の真の規模や保護策の効果を見えにくくするため、継続的な長期モニタリングが不可欠となります 。これは、ウミガメの保護が短期的な解決策ではなく、複数の世代にわたる取り組みであることを示しています。
メスのウミガメは、満身の力を込めて海から現れ、満潮線よりも高い安全な場所を選びます。そして、後肢を巧みに使い、時間をかけて体全体を収めるためのボディーピットと、卵を産み落とすための深い卵室を掘ります。アカウミガメの場合、一度に平均90個から130個ほどの卵を産みます。産卵後は、後肢で丁寧に砂をかけ、巣をカモフラージュして海へと帰っていきます。
屋久島での産卵期間は、主に4月下旬から8月上旬で、活動のピークはPM21:00からAM03:00にかけてです。
ウミガメが産卵に費やす莫大なエネルギーと、その間の無防備さを考えると、静かで妨害のない砂浜がいかに重要であるかがわかります。ウミガメは、光や人の気配などのわずかな妨害でも、産卵を諦めて海に引き返してしまう「偽上陸」を引き起こします。
そのため永田浜では、5/1〜9/30 20:00〜05:00の期間は、地域のルールによって砂浜への立ち入りは自粛しています。
ウミガメが残した卵は、砂の中で地熱によって温められ、約45日から75日でふ化します 。屋久島でのふ化シーズンは、7月上旬から9月下旬です。ふ化した子ガメたちは、3日から7日かけて協力して砂の層を掘り進み、夜の闇を待って一斉に巣穴から這い出し、海を目指します。
子ガメたちが海へ向かう際の主な手がかりは、海上の空が陸側よりも明るく見えることです。しかし、この本能的な行動が、現代の環境では裏目に出ることがあります。街灯や民家の明かり、懐中電灯の光は、子ガメたちを海とは逆の方向へ誘い込み、命取りになってしまいます。
また、人間の歩行によって踏み固められた砂浜によって、子ガメが自力で地上に出ることが困難になったり、不可能になったりします。永田浜でふ化した子ガメが海にたどり着ける割合(帰海率)は近年35~50%程度に過ぎず、その一因が砂の踏み固めであると指摘されています。また、砂浜上のゴミも、小さな子ガメにとっては大きな障害物となります。
屋久島のウミガメとその産卵地を守るため、多様な組織や人々が連携して活動しています。
屋久島におけるウミガメ保全は、国、地方自治体、専門NPO、そして地域コミュニティが協力する多角的なモデルと言えます。各主体がそれぞれの強み(法的権限、科学的専門知識、現場管理能力、地域知識など)を持ち寄ることで、より包括的なアプローチが可能になっています。
例えば、「永田浜ウミガメ観察ルール」は、屋久島町エコツーリズム推進協議会という共同体制から生まれたものです。
かつては比較的自由だった浜へのアクセスが、管理された観察ツアーへと移行したことは、観光客の関心の高まりとウミガメ保護の必要性との間でバランスを取ろうとする適応的管理戦略の一例です。光の不使用やガイドによる案内といったルールは、攪乱を最小限に抑えつつ、人々に感動的な体験を提供することを目指しています。
ホテルでは、このウミガメ産卵の見学会を紹介しています。
ウミガメの理解促進に向けて、ご希望の方は以下よりお申し込みをお願いします。
【夜のウミガメ見学会】
静寂に包まれた夜の浜辺で、専門ガイドの案内のもと、母ガメが懸命に命を繋ぐ産卵の瞬間に立ち会えるかもしれません。波音だけが響く特別な空間で、生命の神秘と力強さを間近に感じる、忘れられない体験となるでしょう。ウミガメ保護のルールを学びながら、太古から続く営みをそっと見守りませんか?
THE HOTEL YAKUSHIMA 代表 / 屋久島観光協会 会長 後藤 慎
屋久島のウミガメは、北太平洋全体で見ても極めて重要です。しかし、ウミガメの未来は、人間による局所的な攪乱や光害、そして地球規模での気候変動や海洋プラスチック汚染といった、数多くの脅威にさらされています。
産卵数のデータは年によって変動し、ある年は増加し、別の年は減少することもあります。この変動性は、短期的な傾向だけでは全体像を把握で、長期的なモニタリングと、状況に応じた柔軟な管理が重要です。
観光のような経済活動とウミガメ保護とのバランスを取るという課題は、今後も続くでしょう。地域経済と野生生物双方に利益をもたらす持続可能な解決策を見出すことが、長期的な成功の鍵となります。これには、すべての関係者間での継続的な対話と協力が不可欠です。
そして、こうしたウミガメ保護への取り組みや、彼らが直面している環境問題について、ここ屋久島を訪れてくださる皆様をはじめ、より多くの方々に深く知っていただくこと。それこそが、この貴重な自然と共生し、豊かな恵みを未来へとつないでいく持続可能な地域づくりにとって、そしてウミガメというかけがえのない存在を守り続ける上で、欠かすことのできない大切な一歩だと、私どもは考えております。
屋久島のウミガメたちが、これからもこの美しい島の砂浜に命を繋ぎに来られるように、私たち一人ひとりがこの貴重な自然遺産を守るという共通の責任を胸に刻む必要があります。
それは、未来の世代への贈り物となるでしょう。
屋久島のウミガメたちが、幾世代にもわたってこの島の砂浜に還ってくることができるのは、豊かな自然環境はもちろんのこと、その浜を日々見守り、ウミガメとの共生を大切にしてこられた地域集落の皆様の、長年にわたる深いご理解とご協力があってこそです。ウミガメたちの命の物語は、美しい海や砂浜だけでなく、そこに息づく人々の温かい想いとも、固く結びついているのです。
ウミガメたちが命を育む浜辺のすぐそばで営まれる、屋久島の人々の暮らしや文化に触れる「里めぐり」というツアーもご用意しております。島の歴史を物語る古い石垣、生活の知恵が詰まった小路、そして何よりもそこに住まう方々の笑顔に出会えるかもしれません。
ウミガメたちが教えてくれる自然の神秘と生命の輝きと共に、この島のもうひとつの宝物である集落の奥深い魅力にも、ぜひ足を運んでいただけましたら幸いです。屋久島の「浜」と「里」、その両方を知ることで、皆様の旅がより一層豊かなものになることを願っております。
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